山本歩禅『句集 森の鹿』(私家版)より

  • 2019.08.14 Wednesday
  • 22:35

 

 

昭和59。
「かつらぎ」同人。

群羊のねむるはいづこ月の原

外套を脱げば胸なるクルスかな

地を蹴ればはや天のもの寒鴉

子を負へば耳に舞ひをる風車

涅槃図はひろびろと目のとどかざる

泉あり遠き神代に恋ありき

炎天に即して松のいさぎよし

学問の純粋を恋ひ落葉踏む

桜貝かざせば空の広さかな

葛湯吹きつつも渡独のこと思ふ

うるはしき五月ハイネもかく詠みき

かの古城葡萄黄葉の丘を統べ

胸の辺にとまる夜の雪とまるまま

雪霏々として殉教者フスの像

囀の縷々として朝はじまりぬ

薔薇の蜂一花に溺ることはなし

書庫かげりきたりしはいま薔薇の雨

露地あれば霧這ひゆきてとどまらず

空蝉の開きし背に虚空あり

頬杖やわれ春宵のパリにあり

河上肇歌碑に木の実の並べあり

鳩の影いまわが影の冬薔薇

噴水の栓のあらはに冬ざるる

旅暑し何かにつけてパスポート

邪宗門一揆を語る紙魚の文

春時雨ひととき書肆を暗くせり

流燈の気儘に離れゆくもあり

文語こそよけれ黴びにし聖書なれど

春愁の吾子の心に触れも得ず

さみだれて翁このかた光堂

聴けとこそぬばたまの夜の虎ケ雨

旅衣よし濡るるとも沙羅の雨

春を待つ石の十字架石の薔薇

空瓶と海月と一つ波に乗り

甘んじて我春眠の縛にあり

ぼうたんに日曜画家のかはるがはる

ドイツ語の辞書の黴びたるさもあらん

郭公の声とは常に遠きもの

碧落は太初このかた雪の富士

山に神みづうみに神旅涼し

 

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