中村花芙蓉『句集 ひとつぶの露』(私家版)より
- 2019.10.08 Tuesday
- 22:57
平成1。
「雲海」「俳句作家」「水葱」同人。
半世紀もの長きをハンセン病の療養所にて過ごす。
病院の花を見に来る人のあり
火蛾かなし病める灯を夜々奪ふ
黍畑に母の声ある帰省かな
不自由は不自由として冬籠
金魚玉看護婦長が映り来る
手のとどくものの一つに蝿叩
春愁やまた偽りの手紙書く
病人を看とる病人鳥雲に
百歳の露の齢を全うす
指の無き掌よりこぼるる雛あられ
己が咳に己がめざめて個室かな
癒えたしや祭太鼓を打ちたしや
見てゐしがついに踊りの輪に入りぬ
大手術明日にひかへて昼寝かな
人知れず落葉と共に遺品焼く
天高しどこへゆくにも手をひかれ
春眠をゆり起されて検温す
ベッドよりはなれて十歩月拝む
金賞の菊も焚かれてしまひけり
寒紅や母そつくりの泣き黒子
死にもせで這ひつくばつて親鸞忌
日向ぼこおなら出る日は病よし
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