2024年
「かつらぎ」主宰
第4句集
色持たぬ忠雄の館冬に入る
また雨か呟き聞こえ峠の忌
玉虫の飛ぶや物部氏の墳に
縁日に日除はみ出す物多し
義援乞ふ声涸れ募金箱の灼け
郡山廓跡にも金魚飼ふ
人も樹も背高き国に黄落す
間なく去る祖国の秋を惜しみけり
客は我一人聖夜の理髪店
黒ビール干してEU離脱問ふ
絮飛ばしたんぽぽのただ突つ立てる
光撒き散らし金魚の仕分けさる
五稜郭要に四囲の山粧ふ
天高し遺跡から打つEメール
タクシーのドアを福笹はみ出しぬ
芽吹きけりかつてハイネの住みし家
獣めく法螺の音響く修二会かな
魂の走れるごとき修二会かな
萩揺らすほどなる風の古刹かな
秋灯下一句一句に対峙せり
国生みの島を目指すや旅始
鉾縄を跨ぎ一喝されにけり
脱稿にひとり酌みたる夜長かな
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令和1
「鳰の子」同人
第1句集
越えてきし雪嶺仰ぐ野天風呂
万葉の地を一望に登高す
生煮えの返事が多し着ぶくれて
一切の音を消し去り瀧の落つ
恵方とて子の住む国へはるばると
駆け抜くる風のかたまり競べ馬
結論を迫る御仁にまあビール
百座まで残すは五岳汗涼し
置き去りのあの日あの時フクシマ春
お松明練行衆のシルエット
身動きのできぬ鉾町こんちきちん
猫の尾のふれて弾ける鳳仙花
ふるまひは地酒地魚浦祭
しくじりも芸のうちなり猿回し
豆撒を待つ輪ぢりぢり縮まりぬ
受験子へ立看板の檄の列
山の神田毎に迎ふ春祭
力車マンけふも榕樹に三尺寝
涼しさや後ろ姿の修行僧
広島忌禎子・オバマの折りし鶴
鮎落ちて尖る瀬の音風の音
眠れども耳眠らせぬ竈猫
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平成18
「赤楊の木」同人
第1句集
咳く度に帽灯ゆれてゐる坑夫
虹消ゆる人棒立ちとなりにけり
坑夫辞めて農に生きんか葱坊主
流産の汗拭きやれば妻泣けり
立ち上る波のうしろの五月闇
白き息四方より一教師に満つ
河童忌の墨のたちまち乾くかな
山頭火忌の穭田を通りけり
かまくらの中のぬくさを誰も言ふ
耕すやひとりに深き峡の空
黒豆のふつくら煮えて山に雪
眠りたる山の相聞青丹よし
神将の目のうるみたる花粉症
日本に帰化の茅の輪をくぐりけり
くろがねの鯉立ち上る蛇笏の忌
うからの訃やからの婚や十二月
沙汰なくば炬燵ばなしに殺さるる
篁を雨の過ぎゆく端午かな
空狂ふほど白鳥の来りけり
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2024年
「玉梓」同人
第1句集
冬日射まつすぐ生きよと父の声
火を追ふ火闇煌々とお山焼
生き急ぐなかれと伏すや春の風邪
お山焼炎太古の闇を駆く
落花頻り父を葬りし日のやうに
行く春や弥陀半眼に光るもの
げんげ田に心の隙間埋めに行く
母在ますただそれだけのこと小六月
解体の日までは生家武具飾る
銀杏散る父に背きし子も父に
海神へ夕焼のレッドカーペット
湯上りのワイン一口夢二の忌
聖夜劇友の台詞も覚えし子
露時雨靴音潜めミサへ急く
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平成4
「菜の花」同人
第1句集
着膨れて肩で押すドアすぐしまる
村雪解ビニールハウスきらめける
月の夜の稲穂一粒毎見ゆる
悴む手ほぐし子の嘘聞きてをり
春愁の色鉛筆を鋭く削る
飛んでゐる限り華麗に秋揚羽
木の瘤にまろく雪積み日の暮るる
野焼せし夜は卵黄のごとき月
西東不明の任地犬ふぐり
向きあへる鴟尾のよき距離朧月
分校の門の際から田の植わる
疲れ鵜の引き上げられて雫せり
美しき空忘れゐし紅葉狩
山暮れて鮎を焼く火の美しき
盆踊鼻緒なじみて終りたる
羊が弾くチェロの絵の部屋月さして
原稿の書き出し決まるつばくらめ
ぱらぱらと喜雨の大粒土匂ふ
滝風に触れしより蝶あらあらし
落椿芯の上向く実朝忌
子の会話聞こゆる位置に端居して
でで虫の葉おもてにをる良夜かな
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平成25
「菜の花」主宰
第一句集『二十代』のリメイク
雨の中雨の走れる白雨かな
稲雀追われ隣の田に下りる
やわらかき肩とふれゆく秋祭
野を枯らし尽し凩人に吹く
燐寸擦るや夜の雪景動揺す
万緑へ柩軽々出て行けり
海明ける昨夜のビール瓶が立ち
祭の天澄み鶏の声なき死
虹消えし野をいきいきと妻帰る
白鷺も薄目して飛ぶ昼の月
胡桃割りくるみの中の闇を消す
窓に降る春雪継がぬ田にも降る
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1996年
「菜の花」同人
第1句集
ドア細く開けて雪ん子入れてやる
軒先につららが太る喪の家族
一戸づつ出てはかげろふ郵便夫
夕日射すすでに冷たき松の幹
夕立に打たれしものを全て脱ぐ
月が出るつらら太れるだけ太り
墓の影靴に届きてあたたかし
受験子に大きな靴の友来たる
月の出に間のあり瓜を揉んでをり
踏石のどこも濡らさず蛇渉る
滝壷にときどき差して鳶の影
戸口まで雪押し寄する夫の留守
奥飛騨へ電話つながる夜の秋
雪走る店頭に盛る青みかん
着膨れてをり野良猫に住みつかれ
独酌の夫置き花火見に出づる
軒潜るときも水平ぎんやんま
オートバイ銀杏落葉を湧かせ発つ
根雪まだ解けず逢ひたき人二三
ぎつしりと墓石に映り蝉鳴く木
灯を消して厨休ます良夜かな
秋燕の落とせしものが地に動く
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平成2
「運河」「春日野」同人
第1句集
猫通り犬通りゆく蕗の薹
風花のとび行けるもの消えしもの
月浴びてゐること知らず線路工
日輪の円の中にも雪降れり
薄氷を指で沈めて手を洗ふ
うららかや島の黒牛犬と寝て
長梅雨や犬がしきりに小屋齧る
十津川のトンネルどこも滴れる
網戸の目へこませ覗く犬の鼻
梅雨濡れの朝刊一枚づつはがす
山辛夷手をかざさねば光かと
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平成24
「朱雀」同人
第1句集
右よしの左いせぢや風薫る
村小町踊りの背に団扇差し
掌の蛍に温みあるごとく
落日のさらけ出したる大枯野
ポケットの中に鳴り出す初電話
長老の一番乗りの寒稽古
牛蛙鳴き出し句座の盛り上がる
熱帯夜柱で冷やす足の裏
雲の峰龍馬が眠る東山
着ぶくれを叩きて探すドアの鍵
悴む手摺りてはじまる珠算塾
風花や花一つなき銀閣寺
水脈を引くまでは目立たず鳰
桜井線土筆の束の忘れもの
春昼や水車三拍子にて回る
キャンパスに零銭一機青嵐
稲架襖一枚隔て能登の海
緑蔭に机並べて献血車
羊蹄草(ぎしぎし)や嘗てにはとり放し飼
一本の蝋燭涼し伎芸天
山間に開けて蕎麦の花浄土
黄落やサナトリウムに赤ポスト
布団打ち古りたる夢を叩き出す
乱れなきオール八本風光る
手書きにて「ピアノ教室」薔薇の門
磯遊び潮の際まで乳母車
杖二本麒麟のごとく青き踏む
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2008年
「苑」主宰
第十句集
大袈裟に風を演出雪柳
備へてもいくさはするな武者幟
おおと呼ぶ禰宜のテノール山開
百層の窓の夕焼落伍なし
片蔭を刺客のごとく急ぐなり
榠櫨据ゑ一対一の黙くらべ
存分に鬼舞はせけり神の留守
人の世を見過ぎし十畳凧おろす
野火奉行武蔵のごとく棒かざす
タップでも踏もか地虫に出でよとて
囀の此処を静かな場所といふ
日本刀抜けば飛びつく新樹光
孤独なる父の日競馬場にても
海遊館
まんばうと玻璃対面や文化の日
帰省子に麻婆豆腐辛くせり
黙祷の声にいや増す蝉時雨
棉の実を吹いてみたくて唇を寄す
栗拾ふ熊そつくりの四つん這ひ
人の眼に曝されどほし牡丹散る
走るなり寝るなりどうぞ大花野
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1998年
「天狼」会友 「築港」同人
第1句集
乳母車押しだんじりの後につく
滝あつてその又上に行者滝
豆を蒔く高階の鬼逃げ場なし
福娘少し傾く金烏帽子
小児科に子の丈ほどの聖樹あり
時代祭式部と納言同乗す
売り声は上げず売りゐる懸想文
遠雷を小言のごとく聞き流し
国宝も寺宝も見せて紅葉寺
地下街に修行僧立つ聖樹立つ
百人一首恋札ばかりとりゐたり
樒咲く山に囲まれ九体仏
迎鐘辻をいくつも曲がり来て
一本の綱に託せし迎鐘
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昭和22
第2句集
野の藤はひくきより垂り吾に垂る
春月の明るさをいひ且つともす
硯洗ふ墨あをあをと流れけり
濤うちし音返りゆく障子かな
朝刊に日いつぱいや蜂あゆむ
冬の月明るきがまま門(と)を閉ざす
洋子生る
天の川今瀧なせり産聲を
着きてすぐわかれの言葉露の夜
春潮に指をぬらして人弔ふ
ひと日臥し卯の花腐し美しや
生々と切株にほふ雲の峰
芦の笛吹きあひて音を異にする
七夕や髪ぬれしまま人に逢ふ
うちそとに月の萩むら門を鎖す
狐花わが前に咲き沼に咲き
山口波津女夫人に
夕焼中ともにをみなの髪そまり
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2010年
「狩」同人
第1句集
背泳を時には見せて鯉幟
向日葵の丈の止まらず休耕地
藍甕の藍の息づく土間の冷え
耳遠き父が捉へし初音かな
真つ先に犬駆け込めり避暑の荘
保育所に泣く子を預け休暇明け
新胡麻を砂金のごとくたなごころ
肩肘を張りたるままの捨て案山子
着ぶくれて顔まで丸くなりしかな
忙しき母を素通り風邪の神
幕の内二段重ねに初芝居
脱ぎ捨ててあり成人の日の晴れ着
雛の前尻丸出しに襁褓替ふ
野遊びやまとひつく子に躓きて
大粒は思はず口に苺摘み
びしよぬれになつておしまひ水遊び
向日葵の背比べして保育園
いつせいに太陽へ逃げ稲雀
地場のもの地に並べ売る豊の秋
どんぐりをひとりが拾ひ列乱る
一本の杭をよすがに薄氷
天をさす指より甘茶注ぎけり
積み上ぐる岩の五段に作り滝
草で鎌拭ひてをはる草刈女
くれなゐの一字なびかせ氷旗
どんぐりのひかるものより拾はるる
煤逃げの先生とあふ珈琲店
大試験父の時計を腕に嵌め
杉花粉まみれの空へケーブルカー
野遊びや一人駆ければみな駆けて
楽焼皿窯に預けて野に遊ぶ
読みかけのページに置かれ青蜜柑
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平成30
「握手」「沖」同人
第1句集
まんなかに母在る幸や雑煮吹く
花蜂の8の字飛びのビブラート
蚕豆を剥くもうひとり子の欲しき
亡き人の一語一語や龍の玉
カフカ読む秒針の音冴えて来し
父の日やオイルのまはるフライパン
十二月八日元栓固締めす
漢字帳に母がいつぱい日脚伸ぶ
草波に浮くをおぼえて蜥蜴の子
お日柄も枝ぶりもよき巣立かな
蝉の森投網のなかをゆくごとし
塩すこし買ひ足す二百十日かな
きざはしに袂余して春着の子
緊急地震速報蔦の芽が真つ赤
ずれがちの眼鏡拳法記念の日
母の日や短縮番号1に母
没個性否脱個性萍よ
おひさまはけふもすつぴん掛大根
ヤッホーのホーよく伸びて春の山
言はでもの悔いよ金魚に泡ひとつ
夏休み嗚呼消しゴムの滓のなか
頬杖にかなふ小窓や小鳥来る
行く秋の何せむとして手に輪ゴム
まだ音を置かぬ五線紙鳥雲に
梅白し結ぶみくじも負けてゐず
瓜冷ゆる庖丁位置につきにけり
日の丸に十字の折目文化の日
猟銃を磨く眼いまおとうとでなく
動物病院枯野から引く電話線
風邪熱のはじめ夜空を被(き)るやうな
浅蜊売海をこぼしてゆきにけり
天を突く主審のこぶし夏に入る
雪降り積む合せ鏡のかたわれに
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平成13
「浮野」同人
第2句集
すぐとまるおもちやの汽車に冬の蝿
子育てを吾娘にあづかる蝶の昼
師を乗せてたくあん匂ふ愛車かな
蝶の昼ボタン摑みて寝に就く子
ハンドルを野に向け月に向けてをり
病気にも恋にも無縁夏帽子
しろがねの水くろがねの虫の声
としよりの中に母ゐて冬うらら
仏守り孫守る家居日脚伸ぶ
恋妻も共に老いつつさくらんぼ
春濤のめざす恋人岬かな
鉦叩おもかげうすれやすければ
天に子を待たせて日記買ひにけり
調律師春の機嫌をとるごとし
雪渓やとどかぬものに手を伸ばす
敬老の日の年寄りの代理かな
桃咲いて亡き子の男ざかりかな
白障子つうのごとくに母こもり
母少食和加子作りの若菜粥
窓あけて椿に近し忌に近し
水を見て野にとどまれる暮春かな
来し方のすべてが母や草を取る
存分に曲りて太る胡瓜かな
巻尺を地球にあてて運動会
ばかねえと己れに言つて冬うらら
残雪も残月もさざなみになる
松過や引けばはたらく換気扇
還暦や一にもどりし初桜
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