2024年
「かつらぎ」主宰
第4句集
色持たぬ忠雄の館冬に入る
また雨か呟き聞こえ峠の忌
玉虫の飛ぶや物部氏の墳に
縁日に日除はみ出す物多し
義援乞ふ声涸れ募金箱の灼け
郡山廓跡にも金魚飼ふ
人も樹も背高き国に黄落す
間なく去る祖国の秋を惜しみけり
客は我一人聖夜の理髪店
黒ビール干してEU離脱問ふ
絮飛ばしたんぽぽのただ突つ立てる
光撒き散らし金魚の仕分けさる
五稜郭要に四囲の山粧ふ
天高し遺跡から打つEメール
タクシーのドアを福笹はみ出しぬ
芽吹きけりかつてハイネの住みし家
獣めく法螺の音響く修二会かな
魂の走れるごとき修二会かな
萩揺らすほどなる風の古刹かな
秋灯下一句一句に対峙せり
国生みの島を目指すや旅始
鉾縄を跨ぎ一喝されにけり
脱稿にひとり酌みたる夜長かな
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令和1
「鳰の子」同人
第1句集
越えてきし雪嶺仰ぐ野天風呂
万葉の地を一望に登高す
生煮えの返事が多し着ぶくれて
一切の音を消し去り瀧の落つ
恵方とて子の住む国へはるばると
駆け抜くる風のかたまり競べ馬
結論を迫る御仁にまあビール
百座まで残すは五岳汗涼し
置き去りのあの日あの時フクシマ春
お松明練行衆のシルエット
身動きのできぬ鉾町こんちきちん
猫の尾のふれて弾ける鳳仙花
ふるまひは地酒地魚浦祭
しくじりも芸のうちなり猿回し
豆撒を待つ輪ぢりぢり縮まりぬ
受験子へ立看板の檄の列
山の神田毎に迎ふ春祭
力車マンけふも榕樹に三尺寝
涼しさや後ろ姿の修行僧
広島忌禎子・オバマの折りし鶴
鮎落ちて尖る瀬の音風の音
眠れども耳眠らせぬ竈猫
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平成18
「赤楊の木」同人
第1句集
咳く度に帽灯ゆれてゐる坑夫
虹消ゆる人棒立ちとなりにけり
坑夫辞めて農に生きんか葱坊主
流産の汗拭きやれば妻泣けり
立ち上る波のうしろの五月闇
白き息四方より一教師に満つ
河童忌の墨のたちまち乾くかな
山頭火忌の穭田を通りけり
かまくらの中のぬくさを誰も言ふ
耕すやひとりに深き峡の空
黒豆のふつくら煮えて山に雪
眠りたる山の相聞青丹よし
神将の目のうるみたる花粉症
日本に帰化の茅の輪をくぐりけり
くろがねの鯉立ち上る蛇笏の忌
うからの訃やからの婚や十二月
沙汰なくば炬燵ばなしに殺さるる
篁を雨の過ぎゆく端午かな
空狂ふほど白鳥の来りけり
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2024年
「玉梓」同人
第1句集
冬日射まつすぐ生きよと父の声
火を追ふ火闇煌々とお山焼
生き急ぐなかれと伏すや春の風邪
お山焼炎太古の闇を駆く
落花頻り父を葬りし日のやうに
行く春や弥陀半眼に光るもの
げんげ田に心の隙間埋めに行く
母在ますただそれだけのこと小六月
解体の日までは生家武具飾る
銀杏散る父に背きし子も父に
海神へ夕焼のレッドカーペット
湯上りのワイン一口夢二の忌
聖夜劇友の台詞も覚えし子
露時雨靴音潜めミサへ急く
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平成4
「菜の花」同人
第1句集
着膨れて肩で押すドアすぐしまる
村雪解ビニールハウスきらめける
月の夜の稲穂一粒毎見ゆる
悴む手ほぐし子の嘘聞きてをり
春愁の色鉛筆を鋭く削る
飛んでゐる限り華麗に秋揚羽
木の瘤にまろく雪積み日の暮るる
野焼せし夜は卵黄のごとき月
西東不明の任地犬ふぐり
向きあへる鴟尾のよき距離朧月
分校の門の際から田の植わる
疲れ鵜の引き上げられて雫せり
美しき空忘れゐし紅葉狩
山暮れて鮎を焼く火の美しき
盆踊鼻緒なじみて終りたる
羊が弾くチェロの絵の部屋月さして
原稿の書き出し決まるつばくらめ
ぱらぱらと喜雨の大粒土匂ふ
滝風に触れしより蝶あらあらし
落椿芯の上向く実朝忌
子の会話聞こゆる位置に端居して
でで虫の葉おもてにをる良夜かな
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平成25
「菜の花」主宰
第一句集『二十代』のリメイク
雨の中雨の走れる白雨かな
稲雀追われ隣の田に下りる
やわらかき肩とふれゆく秋祭
野を枯らし尽し凩人に吹く
燐寸擦るや夜の雪景動揺す
万緑へ柩軽々出て行けり
海明ける昨夜のビール瓶が立ち
祭の天澄み鶏の声なき死
虹消えし野をいきいきと妻帰る
白鷺も薄目して飛ぶ昼の月
胡桃割りくるみの中の闇を消す
窓に降る春雪継がぬ田にも降る
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1996年
「菜の花」同人
第1句集
ドア細く開けて雪ん子入れてやる
軒先につららが太る喪の家族
一戸づつ出てはかげろふ郵便夫
夕日射すすでに冷たき松の幹
夕立に打たれしものを全て脱ぐ
月が出るつらら太れるだけ太り
墓の影靴に届きてあたたかし
受験子に大きな靴の友来たる
月の出に間のあり瓜を揉んでをり
踏石のどこも濡らさず蛇渉る
滝壷にときどき差して鳶の影
戸口まで雪押し寄する夫の留守
奥飛騨へ電話つながる夜の秋
雪走る店頭に盛る青みかん
着膨れてをり野良猫に住みつかれ
独酌の夫置き花火見に出づる
軒潜るときも水平ぎんやんま
オートバイ銀杏落葉を湧かせ発つ
根雪まだ解けず逢ひたき人二三
ぎつしりと墓石に映り蝉鳴く木
灯を消して厨休ます良夜かな
秋燕の落とせしものが地に動く
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平成2
「運河」「春日野」同人
第1句集
猫通り犬通りゆく蕗の薹
風花のとび行けるもの消えしもの
月浴びてゐること知らず線路工
日輪の円の中にも雪降れり
薄氷を指で沈めて手を洗ふ
うららかや島の黒牛犬と寝て
長梅雨や犬がしきりに小屋齧る
十津川のトンネルどこも滴れる
網戸の目へこませ覗く犬の鼻
梅雨濡れの朝刊一枚づつはがす
山辛夷手をかざさねば光かと
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平成24
「朱雀」同人
第1句集
右よしの左いせぢや風薫る
村小町踊りの背に団扇差し
掌の蛍に温みあるごとく
落日のさらけ出したる大枯野
ポケットの中に鳴り出す初電話
長老の一番乗りの寒稽古
牛蛙鳴き出し句座の盛り上がる
熱帯夜柱で冷やす足の裏
雲の峰龍馬が眠る東山
着ぶくれを叩きて探すドアの鍵
悴む手摺りてはじまる珠算塾
風花や花一つなき銀閣寺
水脈を引くまでは目立たず鳰
桜井線土筆の束の忘れもの
春昼や水車三拍子にて回る
キャンパスに零銭一機青嵐
稲架襖一枚隔て能登の海
緑蔭に机並べて献血車
羊蹄草(ぎしぎし)や嘗てにはとり放し飼
一本の蝋燭涼し伎芸天
山間に開けて蕎麦の花浄土
黄落やサナトリウムに赤ポスト
布団打ち古りたる夢を叩き出す
乱れなきオール八本風光る
手書きにて「ピアノ教室」薔薇の門
磯遊び潮の際まで乳母車
杖二本麒麟のごとく青き踏む
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2008年
「苑」主宰
第十句集
大袈裟に風を演出雪柳
備へてもいくさはするな武者幟
おおと呼ぶ禰宜のテノール山開
百層の窓の夕焼落伍なし
片蔭を刺客のごとく急ぐなり
榠櫨据ゑ一対一の黙くらべ
存分に鬼舞はせけり神の留守
人の世を見過ぎし十畳凧おろす
野火奉行武蔵のごとく棒かざす
タップでも踏もか地虫に出でよとて
囀の此処を静かな場所といふ
日本刀抜けば飛びつく新樹光
孤独なる父の日競馬場にても
海遊館
まんばうと玻璃対面や文化の日
帰省子に麻婆豆腐辛くせり
黙祷の声にいや増す蝉時雨
棉の実を吹いてみたくて唇を寄す
栗拾ふ熊そつくりの四つん這ひ
人の眼に曝されどほし牡丹散る
走るなり寝るなりどうぞ大花野
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1998年
「天狼」会友 「築港」同人
第1句集
乳母車押しだんじりの後につく
滝あつてその又上に行者滝
豆を蒔く高階の鬼逃げ場なし
福娘少し傾く金烏帽子
小児科に子の丈ほどの聖樹あり
時代祭式部と納言同乗す
売り声は上げず売りゐる懸想文
遠雷を小言のごとく聞き流し
国宝も寺宝も見せて紅葉寺
地下街に修行僧立つ聖樹立つ
百人一首恋札ばかりとりゐたり
樒咲く山に囲まれ九体仏
迎鐘辻をいくつも曲がり来て
一本の綱に託せし迎鐘
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昭和22
第2句集
野の藤はひくきより垂り吾に垂る
春月の明るさをいひ且つともす
硯洗ふ墨あをあをと流れけり
濤うちし音返りゆく障子かな
朝刊に日いつぱいや蜂あゆむ
冬の月明るきがまま門(と)を閉ざす
洋子生る
天の川今瀧なせり産聲を
着きてすぐわかれの言葉露の夜
春潮に指をぬらして人弔ふ
ひと日臥し卯の花腐し美しや
生々と切株にほふ雲の峰
芦の笛吹きあひて音を異にする
七夕や髪ぬれしまま人に逢ふ
うちそとに月の萩むら門を鎖す
狐花わが前に咲き沼に咲き
山口波津女夫人に
夕焼中ともにをみなの髪そまり
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2010年
「狩」同人
第1句集
背泳を時には見せて鯉幟
向日葵の丈の止まらず休耕地
藍甕の藍の息づく土間の冷え
耳遠き父が捉へし初音かな
真つ先に犬駆け込めり避暑の荘
保育所に泣く子を預け休暇明け
新胡麻を砂金のごとくたなごころ
肩肘を張りたるままの捨て案山子
着ぶくれて顔まで丸くなりしかな
忙しき母を素通り風邪の神
幕の内二段重ねに初芝居
脱ぎ捨ててあり成人の日の晴れ着
雛の前尻丸出しに襁褓替ふ
野遊びやまとひつく子に躓きて
大粒は思はず口に苺摘み
びしよぬれになつておしまひ水遊び
向日葵の背比べして保育園
いつせいに太陽へ逃げ稲雀
地場のもの地に並べ売る豊の秋
どんぐりをひとりが拾ひ列乱る
一本の杭をよすがに薄氷
天をさす指より甘茶注ぎけり
積み上ぐる岩の五段に作り滝
草で鎌拭ひてをはる草刈女
くれなゐの一字なびかせ氷旗
どんぐりのひかるものより拾はるる
煤逃げの先生とあふ珈琲店
大試験父の時計を腕に嵌め
杉花粉まみれの空へケーブルカー
野遊びや一人駆ければみな駆けて
楽焼皿窯に預けて野に遊ぶ
読みかけのページに置かれ青蜜柑
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平成30
「握手」「沖」同人
第1句集
まんなかに母在る幸や雑煮吹く
花蜂の8の字飛びのビブラート
蚕豆を剥くもうひとり子の欲しき
亡き人の一語一語や龍の玉
カフカ読む秒針の音冴えて来し
父の日やオイルのまはるフライパン
十二月八日元栓固締めす
漢字帳に母がいつぱい日脚伸ぶ
草波に浮くをおぼえて蜥蜴の子
お日柄も枝ぶりもよき巣立かな
蝉の森投網のなかをゆくごとし
塩すこし買ひ足す二百十日かな
きざはしに袂余して春着の子
緊急地震速報蔦の芽が真つ赤
ずれがちの眼鏡拳法記念の日
母の日や短縮番号1に母
没個性否脱個性萍よ
おひさまはけふもすつぴん掛大根
ヤッホーのホーよく伸びて春の山
言はでもの悔いよ金魚に泡ひとつ
夏休み嗚呼消しゴムの滓のなか
頬杖にかなふ小窓や小鳥来る
行く秋の何せむとして手に輪ゴム
まだ音を置かぬ五線紙鳥雲に
梅白し結ぶみくじも負けてゐず
瓜冷ゆる庖丁位置につきにけり
日の丸に十字の折目文化の日
猟銃を磨く眼いまおとうとでなく
動物病院枯野から引く電話線
風邪熱のはじめ夜空を被(き)るやうな
浅蜊売海をこぼしてゆきにけり
天を突く主審のこぶし夏に入る
雪降り積む合せ鏡のかたわれに
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平成13
「浮野」同人
第2句集
すぐとまるおもちやの汽車に冬の蝿
子育てを吾娘にあづかる蝶の昼
師を乗せてたくあん匂ふ愛車かな
蝶の昼ボタン摑みて寝に就く子
ハンドルを野に向け月に向けてをり
病気にも恋にも無縁夏帽子
しろがねの水くろがねの虫の声
としよりの中に母ゐて冬うらら
仏守り孫守る家居日脚伸ぶ
恋妻も共に老いつつさくらんぼ
春濤のめざす恋人岬かな
鉦叩おもかげうすれやすければ
天に子を待たせて日記買ひにけり
調律師春の機嫌をとるごとし
雪渓やとどかぬものに手を伸ばす
敬老の日の年寄りの代理かな
桃咲いて亡き子の男ざかりかな
白障子つうのごとくに母こもり
母少食和加子作りの若菜粥
窓あけて椿に近し忌に近し
水を見て野にとどまれる暮春かな
来し方のすべてが母や草を取る
存分に曲りて太る胡瓜かな
巻尺を地球にあてて運動会
ばかねえと己れに言つて冬うらら
残雪も残月もさざなみになる
松過や引けばはたらく換気扇
還暦や一にもどりし初桜
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平成23
無所属
第1句集
春の野を子供は転ぶまで走る
空色の目をしてしやぼん玉を吹く
ひとの声してをり朝寝してゐたる
木蓮の版画のやうに咲いてをり
春風のそよいで人の居ない部屋
父の日のみづうみを見て帰りけり
蛇の棲む庭美しき花の咲き
夕顔のひらいて猫の帰らぬ日
風鈴の音色はきのふよりはるか
草の実のとんでひとりにやさしい日
紅葉のしてゐる誰も居ない家
水ゆれて冬あたたかく思ひけり
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2023年
「香羽」同人
第1句集
身ごもれることなど知らず磯遊
小説にならぬ人生苔の花
歳月はここにも流れ蝉の穴
風鈴をすべて鳴らしてひとつ買ふ
木には木の言葉のありて木の実降る
育児書に引く傍線や明易し
夢でなほ吾子にかしづく良夜かな
去り際に祈りの言葉クリスマス
亀鳴くや勾玉に目のごとき孔
みづからの呼ぶ風に散り山桜
筍に長幼の序のごときもの
食みをれば鳥のこころにさくらんぼ
散りぢりの蟷螂の子のそれつきり
飾り切りされて胡瓜が皿の隅
厩舎よりのぞく鼻すぢ初紅葉
全天を引き絞りゐる寒オリオン
伴奏の教師を包む卒業歌
みづうみを賽の転がる絵双六
鉄塔の刺さつてゐたる冬の空
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2006年
「幡」会員
第1句集
汁椀をおきて黙祷原爆忌
つぶらなる眼の蓑蟲と出会ひたり
泥の中高野聖の足掻きゐる
麥埃腕にはりつく眞晝かな
空中庭園借景は雲の峰
娘生れたり数へ日のそのひと日
井伏鱒二逝く
はんざきや?き雨など降らすまじ
眼に鱗飛ばせて鰯選別す
料峭のことばやさしく拒まるる
貴船路は木にも石にも鴨足草
走り根の行きつくところ苔の花
マフラーの中の喪のタイ直しゐる
百萬遍西入ルあたり大文字
咳をして放哉さんの墓前かな
五合目は天地の境富士薊
そつぽ向く向日葵ばかり實家なり
舞妓の名あかあかとある秋團扇
箒草霜を重ねし色ならむ
空海に私度の前歴花なづな
もののふの駒立てし巌夏の潮
颱風の餘波の河口の濁りかな
葦を焼く炎の中へ飛ぶ炎
蝿生まる書斎といふは名のみにて
月天心日本狼出て吠えよ
鯊釣の即かず離れず口利かず
花衣こゑもろともに立ち上がる
妻とゐて芝居のやうな花吹雪
手術痕撫でつつ讀めり漱石忌
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平成23
「浮寝鳥」同人
第1句集
例年の茸狩り誘ふ母の文
挿木より育てし乙女椿かな
念入りに手鏡ふきて業平忌
麩まんぢゅう届き新茶の封を切る
鳰の子の波のひかりに紛れけり
柿を選る婆一疊の日の筵
十夜鉦とゞめの一打ありにけり
角を伐る神官鹿の口に水
リュックより犬が顔出す紅葉狩
極月の禪堂に日の映りきし
墨とばし鶴一文字の吉書かな
古時計とまりしまゝの紙漉場
花にきて常照皇寺の残り雪
沙羅の花書院大きく開け放つ
かぼちゃ供養庫裏に大鍋五つ六つ
客の髭ほめて夜店の似顔絵師
雪吊の縄に弛緩は許されず
命名の墨あを〵〳と筆始
みどり児の寝てゐる部屋も豆をまく
馬の貌ますます長く陽炎へる
極月の全き富士に合掌す
蝶凍てて枯山水の色となる
青北風の海鵜の小舎を吹きぬけり
白魚買ひ湯浅醤油も買ひにけり
法然も眺めし青嶺雲迅し
一休寺納豆匂ふ圓座かな
禁煙をつゞけ一年稲の花
釣果とて美濃の錆鮎届きけり
「乾坤」と墨たつぷりに筆始
新雪の愛宕詣となりにけり
鐘つけばひと揺らぎしてどんどの火
父の部屋に母の遺せし雛飾る
山寺にいとも小さき涅槃像
傘たゝむ芭蕉玉解く明るさに
竹生島はるかや秋の簾巻く
花野きて蟲養ひの飴ひとつ
綿のもの著せて神馬の冬支度
一幹に五本の足場松手入
炭焼夫煙辛しと火を落す
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平成17
「運河」「三重俳句」同人
第2句集
厚さ増す妻のカルテや春寒し
耕せり枯野の端を捲るごと
山国に暮らせば寡黙冬木立
涅槃図の嘆きの外にゐて嘆く
蟋蟀の黒目に見つめられゐたる
訃を知らす硬貨の冷えをにぎりしめ
伏して嘆く仰ぎて嘆く涅槃絵図
釈迦像を残し剥落涅槃絵図
川瘦せて鮎も終りのころなりぬ
母死にて寒夜どやどや人が来る
放流の稚鮎川鵜がすぐ現れ
鵙猛るために高きに止まりけり
十月の蝉鳴く石垣島に来し
手の少し届かぬところ玉虫飛ぶ
電柱に腸抜きし猪吊れり
春泥の県営畜産試験場
空蝉の摑める墓を洗ひけり
ためらひてゐしが踊の輪に入る
一本杉まはりの稲のよく稔る
猫車死にし狸を乗せゐたり
梅林の道外からは見えざるよ
花大根僧つやややかに老いにけり
増水に休む鵜舟の所在なく
源流は神の滝なり鱒を飼ふ
わが丈を越す自然薯の掘り穴よ
山苺口に含みて木を伐りに
鮎落す水となりたる朝かな
月の夜の琴横抱きに漢来る
鹿の声夜更けにも聴く朝も聴く
村の峰々に日の差す初景色
餅一つ供ふ深雪の山祠
奈良よりの水取の冷え伝はり来
釣大全読みゐて梅雨に籠りけり
竜神と呼びゐる細き峡の滝
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2007年
「幡」主宰
第8句集
雪消えて森や林や田や畠
教育大構内(キャンパス)にあり蝌蚪の国
筆立にぎしと団扇も挿してあり
虫売の目の高さまで子は跼む
しぐるるや都大路は昆布の艶
風邪の子に鶴折つてやる薬包紙
マスクの息熱く京大俳句展
目薬をさせば一転クリスマス
これしきの石に躓く年の暮
絶食の他なく寒く寝る他なし
扇風機どちら向いても顔ばかり
FAXがでれでれ休暇明けに来る
冷まじや火を免れし般若経
妻の手より宙跳び蜜柑われに来る
凩の中へ病室から帰す
葱刻み今朝も即物的な妻
均等に聖菓七つに切れといふ
正月の幼は爺の膝がよし
青き踏みいま幻の巨椋池
読む足に机の下の寒戻り
桜咲くひとがうつかりしてをれば
やや昏し桜観て来し胸のうち
下車すぐに蝶飛んでくる宝塚
噴水に光の芯のありて立つ
蛞蝓の銀河鉄道動き出す
昼寝より戻つてみれば妻がゐる
すぐ横にくちびるがあり花火の夜
静謐は神にかなはず木の実落つ
冬泉覗きて老のナルキソス
赭黒きさくら三代目の冬芽
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昭和50
「雲母」主宰
第6句集
冬深し手に乗る禽の夢を見て
茶の花の映りて水の澄む日かな
凍雪を踏みてこころの花模様
子燕が育つ雲雀の声のなか
花びらを重ねて寒の菊にほふ
かたつむり甲斐も信濃も雨のなか
鱒池の隅に手毬の浮く暮春
山々に闇充満し夏に入る
あるときはおたまじやくしが雲の中
涼しさに鳥が深山の声を出す
偽りのなき香を放ち山の百合
蛇笏忌の杉が屈託なく高し
茶畑の空はるかより鰤起し
破魔矢ゆきあとまたねむるなまこ壁
祖父の世の木臼おほ寒小寒来る
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平成8
「風」「雉」同人
第1句集
秋の蝶吹かれて川を渡りきる
冬牡丹くづれて菰の広さかな
鬼追ひを瓦の鬼が見下ろせり
月食に傷舐めてをり恋の猫
酒倉の裏春泥の深轍
筍(たかんな)を一夜ねかせし土間濡るる
歩くより早く流れて落椿
亀石のあごの下より冬の草
湯の宿や花びら川を越えて来し
半蔀を上げて落花をみ仏に
青すだれ見合ひ疲れの足伸ばす
息白く言葉少なの別れかな
足場まづ祓ひ鉾立てはじまりぬ
初つばめ沖つ白波見て返す
蝉の声千年杉をあふれけり
旧街道箒と大根並べ売る
滝涸れて日の当たりゐる一ところ
たたりある岩と伝へて滴れり
日をはじく能登の瓦や稲の花
菊師出づ抜身の太刀をかいくぐり
うぐひすや朝富士の肌なめらかに
踏まれゐる邪鬼の目玉の春ぼこり
秋の雷術後の胸にひびきけり
病室に薄をいけて無月なり
天守にてはげしく使ふ秋扇
握手してはげます別れ秋ざくら
石垣のなりにうねりて穴まどひ
夫婦滝涸れて一つとなりゐたる
訃のしらせ干梅ひろげゐたる時
朝露の光を踏みて牛舎まで
身に入むや仏の頬に兵火跡
中空に赤き寒月余震来る
恋とげてつぶれし家に猫戻る
血を採らるつくつく法師の声の中
退院を蝿虎に迎へらる
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1997年
「氷室」同人
第1句集
今朝もまた毛虫殺せし手を洗ふ
客去れば夫と二人や枇杷食うぶ
夢醒めて花野に一人立つも夢
むき出しにパンかかへゆく皮コート
命あらば逢はむといひて年の暮
門燈や落葉の好きな吹き溜まり
荒海をかたへに大根干されけり
家計簿を閉ぢたるあとの湯ざめかな
またたける星の凍てたる蒼さかな
秋の蚊を目で追ひ受話器置きにけり
長閑けしやたゆたふ舟を句座として
日記果つ大切なこと書かぬまま
わが胸に問ふ詩ごころ多佳子の忌
南座の大屋根反りて月あがる
花菜入れ道端に籠売られけり
老教師虫追うてをり秋うらら
シャンデリア灯して寒の仏具店
自転車を歩かせてゆくおぼろかな
旅程表畳んで冬の星仰ぐ
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2007年
「京鹿子」主宰
第7句集
夏料理まづ風といふ一品を
満月の一願のごとかかりけり
木洩れ日のゆらぎに秋のひそみゐて
道しるべどこを指しても露ばかり
枯れきれば今日も日なたとなる中洲
遠回りして野の梅のまだ固し
いしだたみ髄まで濡れて春めけり
信州の空ことごとく青りんご
鉾の灯のともりてなづむ山となる
鉾すすむその高さにて厄はらひ
手のなりに風をしづめのをどりなる
あまさずに湖国を入れて秋天下
鳥ぐもり湖国はけふも遠目ぐせ
チューリップあますことなし日の乾杯
街路樹のかげしろがねに薄暑なる
薫風は大弧となりてびわ湖越ゆ
野となれる官衙址蝶をひとつ生む
ねむ咲くや夢に入りくる水の音
峠路は雲もろともに飲む麦茶
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平成10
「京鹿子」主宰
第11句集
ハァーと唄ひ出す初春の島めぐり
兎千生んで辛夷は花の木に
柏餅剥き柏の木思ふかな
鮨桶を緊むあかがねとなるも良し
露散るや破片合はせて土器一壺
牡丹枯れ一木づつの花名札
雨をもて木を騒がすも目借どき
いちじくや明治の母の口ごたへ
旧正の箒の先の紅の糸
あんず苗子育て終へて実育てに
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平成14
「京鹿子」主宰
第4句集
雲とまた喋りはじめて四月の木
あまりにも度忘れ黄葉をのけてみる
点滴に春の雲溶けおりてくる
人きらふこと花冷にかこつけて
穴まどひそらのあをさにふと曳かれ
ひとすみに余花あるそんな宇治の昼
ひとすぢの草ひとすぢの糸とんぼ
白日傘入れてはじまる森の午後
さくらんぼグラスに沈め晩婚論
ただならぬ目つきは瀧を見しゆゑか
うららかな野のまん中の途中下車
いなづまや百鬼のをどる草の上
コスモスはただいま多重放送中
雲ひとつあそびつかれて山眠る
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1998年
「京鹿子」同人
第1句集
柚子に刃を入れてわたしは浮かんでいる
榠樝投げ榠樝とる子ら空うてり
寒林をまっすぐ抜ける角度あり
コスモスを泳ぎふるさと遠すぎる
いちにちは雪の白さのままでいる
鉄線花別れ話を図解して
飲んでも呑んでも凍星がついてくる
いち日を激しく茄子はやわらかく
遠花火恋のくだりは顎をひき
白菜を裂く音だけで今朝はいい
さっきまでの椿の空間が重い
夏掛や遠からずくる死の形
こすもす揺れる行きたいところあるように
はまなすや佐渡に願という地名
あめんぼの躓くほどの水の疵
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平成31
「京鹿子」同人
第1句集
受験子の入りて校門静もれり
花明り小橋それぞれ名を持てる
月見草寄せ来る波のうら翳る
筆太の城主の手紙紙魚走る
夫の捥ぐ梅エプロンに受けにけり
あぢさゐや捨てると決めしピアノ弾く
天平の塔より高き夏の蝶
新米の旗翻り近江晴
教壇を去る日の近く日脚伸ぶ
たこ焼を生業として冬の汗
紙漉の水重くなる夕茜
湖北なる暑さ二寸の大根焚
小春日や神馬の鞍の干してあり
初春の一刀彫の馬匂ふ
花すすき安土の風をはなさずに
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平成23
「笹」同人
第一句集
春光や刷り上りたる夫の著書
夫帰り牡蠣グラタンの煮え滾る
なでしこの切れこみ深くなびきけり
観覧車てつぺんに来て春の海
茜空残りてをりぬ夏料理
初ものの林檎これより信濃路へ
みちのくのひとめぼれなる刈田かな
白鳥の舞の始終をみとどけぬ
母の日や花屋の角に待ち合はせ
東の空の明るき桜かな
稜線や羽根をななめに鷹渡る
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平成19
「運河」主宰
第9句集
懸想文売の狐目忘られず
悪たれの戻りてゐたる春祭
ぼうたんの散りざま淫らとも違ふ
一歩踏み出して動かず山椒魚
板の間は晒屋根なり岩魚焼く
蝮捕前歯一本出し笑ふ
夏帯の後ろ姿も見よといふ
日の昇る前の青空初氷
人選ぶごとき目差梟は
大き死のあとに重き死年の暮
太刀佩かせたる正月の死人(しびと)かな
初観音臍のめでたき仏かな
小刻みの影が正直目高の子
楢林椚林や夏の霜
福相と思ふ眠れる半裂を
山桜紅葉拾ふとするならば
人棲むと思へず鹿尾菜干しゐねば
貧相な顔ふたつ浮く泥鰌鍋
秋の滝ひかりの柱なしゐたり
梟がゐると教へず過ぎにけり
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平成24
「白桃」同人
第1句集
散らさずに登るすべなし萩の磴
落椿その上にまた落椿
淡きとも濃きともうつし世の桜
雛飾る部屋あたためてをりしかな
父の日や飴玉に口なぐさめて
血の薄くなりたるおもひ曼珠沙華
正座せり飾りをはりし雛の前
秋冷の潮鳴りを聴く力石
大空のいちばん底の袋掛
冬満月銀杏は白き木なりけり
秋簾子が来て巻いてゆきにけり
飛花落花峠の風もさくら色
時雨来て声高となる朝の市
暗闇をほぐして辛夷ひらきけり
金亀虫押さへし指を押しかへす
大欅うしろに控ふ御慶かな
子ら散つて色ちらばつて冬ぬくし
黒豆に艶でて嵯峨野しぐれかな
寒卵ゆつくり殻を抜けゆきし
ふつくらと駆込み寺の落葉かな
谷(やつ)ひそか谷よりひそか冬ざぐら
初蝶に大きすぎたる淡海あり
点るたび透けて見えたる螢籠
白壁と懇ろになる次郎柿
沖淋し陸なほさびし鳥ぐもり
負け独楽の弾き出されてなほ回る
水甕に水あふれゐし天の川
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2012年
「家」会員 「濃美」同人
第一句集
麦の芽や鳥のかたちの土の笛
引鴨のはばたき沼を明るうす
籐椅子に覚めて読みつぐ航海記
象嵌の太刀一つ置く夏館
廻廊の水かげろふや光悦忌
矢車のまはりつづけて村さびし
植ゑられて早苗たちまちなびきたる
地虫鳴く千の仏に燭ひくく
錆こぼしつつ花冷の船箪笥
敷茣蓙の波うつてゐる遠はたた
一睡の覚めて雪降る音の中
鷹鳩と化し帆船は壜の中
晩涼の合せ鏡の向かう側
別々の黄落を来し楽器函
はらからのとほき茶の花日和かな
野遊びの筵にははを置きしまま
乳母車幌をたためるさくらかな
山藤や小石で囲む鳥の墓
かはらけのたやすくこはれ萩芒
まづ白湯の沸きて俎始かな
紅梅に来て白梅をふりかへる
涅槃図の外に潮の香の仏たち
野遊びの籠の編目に日のとほり
句碑までのひかりを歩む残花かな
樹々はみなおのが高さに明易し
一舟の分けゆく水草紅葉かな
手庇にあふれ湖北の鴨の陣
潮先のふくらんでくる春着かな
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平成30
「宇宙」同人
第一句集
女生徒の胸の弾けし更衣
朴落葉ごつこの皿に適ひたる
雷神のエールに応ふエースかな
夫婦滝落ちて烈しく一になる
機内にてストレッチせるアロハシャツ
一族の引きたるあとの端居かな
堆きもの処分して秋高し
新型の風邪にあふるる小児科医
青くなるほど薫風を浴びにけり
登山靴一歩たりとも油断なし
丑三つが活動の時あぶらむし
日向ぼこ無用の用の媼かな
生身魂日本の足で確と立つ
篤農の腹心として案山子立つ
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平成10
「狩」同人
第2句集
犬撫でて落第の子の後向き
人魂の巧みな動き夏芝居
出まかせの名で呼んでやる枯野犬
肩凝らぬだけが取り柄の古ジャケツ
寒紅や嘘とまことの使ひ分け
雪女泣くに男の胸いらぬ
葬送ののち梅林へ歩を移す
切り返す言葉おさへてレース編む
落ちてなほ夢見ごこちの合歓の花
送り火の消えてひとりに戻りけり
露の世のつゆの縁の浅からず
笑ひ皺深くなりたり初鏡
喪の家と背中合せの冬籠り
蹠より冷えて案内の僧に蹤く
うららかや夢食べ飽きて獏眠る
渓流の風が風呼び河鹿笛
母の背を砦に鬼に豆を打つ
室咲きやひとりに馴れて馴らされて
春愁の捨て場求めて繁華街
稜線を一瞬あらははたた神
香水で別の女になれるなら
ライオンのTシャツがゆく炎天下
こまごまと物干しをれば小鳥来る
人と生れ猫と生れて日向ぼこ
香水の瓶捨てかねて戦中派
一錠に求めし眠り虎落笛
着ぶくれの子を着ぶくれの母が抱く
夭折の姉かも知れず雪女
水仙の似合ふ仏になり給ふ
もう植うる場所もあらぬに苗木市
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2010年。
第一句集
「泉」会員
蓮根掘り雲を残して帰りけり
白萩に触れたる傘を畳みけり
残寒の干潟ぶつぶつしてゐたり
駆け抜ける毛虫の落ちて来ぬうちに
瓢箪の括れはじめし雫かな
潦跳んできのこの国に入る
山羊の腹みな大きくて冬日和
くれなゐの一筋走る冬の斧
小鳥来る置きつぱなしの乗馬帽
ひと弾みして新藁となりにけり
押し合つて口の裂けたる燕の子
括られて尻美しき冬菜かな
鳶の胸鷗の胸や寒日和
鎌倉の松の匂へる弓始
味噌玉の湯気をさまりし鳥の恋
母と子に浜昼顔の刻流れ
白鳥の水のそはそはしてきたる
龍の玉むかしむかしを聞いてゐる
鋸に父の指跡小鳥来る
龍の玉ばかり探して歩きゐる
一つづつ外す鵜縄や居待月
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昭和61
「寒雷」主宰
第十句集
たんぽぽのぽぽと絮毛のたちにけり
斧あげて風におどろくいぼむしり
咳をしてをれば猫きて嚏せり
躓きて雁の別れのもう見えぬ
残雪に手を拭ひけり与謝峠
月さして青柚子は葉とわかれけり
芭蕉忌を一日おくれてしぐれけり
透きとほる白魚の胎火事の中
蜂に螫されし男の顔の置きどころ
蝉の音の棒の折れたるごとく止む
落日と柿の柿いろばかりかな
すれちがふ子につけられぬ草虱
陽炎が消え団子屋のそこにをり
あらがへる背骨一本青あらし
心動けば身ほとりの寒みな動く
指紋ひとつ羽蟻つぶれし戦時の書
雪降ると兎の風船だけが赤
蠛蠓をつつきりてきし笑顔かな
見てゐたるところから雪降りはじむ
木枯や生き残りたる面構へ
薔薇剪れば夕日と花と別れけり
視野の端に蝶をり論理まとまらず
歩きをり視野に木のなき兜虫
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2011年
第2句集
「梟」同人 「扉」句会代表
海晴れて鯖に重みの増すころぞ
ゴムまりのぺこんと春の土の上
剪定に日差しちくちくしてきたる
長靴のぶかぶかと来る桃の花
Gパンのごはごは乾き登山宿
秋風やでろりと赤き木偶の裾
潮風をよろこぶ仔馬生まれけり
とろ箱を椅子に小舟に夏休み
簾して奥の赤子のしづかさよ
肉挽機から暗紅の鴨の肉
満点に星の貼りつく寒さかな
山開く祝詞さなかを棒の雨
降りながら空の明るむ蟻地獄
とある日は廃墟の景をかひやぐら
松の芯きちんきちんと朝が来て
筒鳥のぽんぽん鳴けりぽんと止む
薔薇園に薔薇は疲れてゐたるなり
このごろの涼しさに置く眼鏡かな
吊橋のぎしりぎしりと雪解風
簗掛けのさなかも水の走りけり
またたいてまたひとつづつ凍る星
元日や見馴れし壁をうち眺め
海開きつめたき水をよろこべり
虹が消えるよ話すならささやいて
松よりも高く日浴びて松手入
鶴はもう来たかと訊けばこつくりと
うつむいてゐる子に光り龍の玉
神苑に寒の水汲むポリタンク
牛蛙闇がぶよぶよしてきたる
声のして達磨の中の達磨売
吉祥天すこし吊り目の涼しさよ
露草に露の干ぬ間の思ひごと
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平成26
第3句集
「鳰の子」主宰
箸紙にまだ箸持てぬ赤子の名
午後からはさらに霞みて草千里
水の香をまとひつめたき螢の火
蝉の木となりて鳥たち寄りつかず
手花火の輪に小さき膝大き膝
向日葵の笑顔壊して種を採る
花野とは風抱くところ揺れやまず
咲ききらず凋むもならず冬の薔薇
秋刀魚焼く尖る口より火の回り
違ふ虫鳴き出す別の闇のあり
十五夜の魚は翼を欲しがりぬ
苔厚く着て寒中の不動尊
縞蛇の縞をひきしめ穴に入る
枯れ切つてむしろ明るき岬かな
海の色濃きにあひたる愁思かな
乾きたるところなどなし紙漉場
水圧して目にも力や箱眼鏡
夏野菜水の匂ひのものばかり
八卦見のあかりのやうな梅雨の月
大熊手担ぎて道をあけさせる
息長き稗田の里の揚雲雀
厨出し鼻すぢ通る葦毛より
なまなかな風には散らぬ遅桜
拳万で別れ憲法記念の日
風よりも涼しきものに水の音
炎天やジャンヌ・ダルクの火刑の地
爆笑と微笑と柘榴同じ枝
冬すみれ盃ほどの日だまりに
はつ夏のみどり違へて野と山と
面倒な話ハンカチもみくちやに
盆の僧嬰の泣き声褒めて去る
鳳仙花姉妹があへば妣のこと
おのづから澄みゆくこころ水の秋
あかり消すことがもてなし月見酒
ゆつくりと手袋脱いでから答
マフラーを派手めに夫を老けさせず
全体の半分が顔桜鯛
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昭和49
第5句集
「風」主宰
枯枝を伐り金星をあらはにす
滝ひびく山葵の花の咲き初め
蜻蛉を翅ごと呑めり燕の子
蛸焼きの紅に日のさす初詣
塔あれば塔の高さの紅椿
湖渡る決意の蝶のはばたけり
白き蝶しろがねの湖わたらむと
茄子の馬流しやるべき川のなき
新しき畳の匂ふ無月かな
二日はや屑籠に紙満ちてあり
さながらに羽化登仙の山霞
簗口に晩夏の光集まれる
秋立てり穂の整はぬ箒草
婚近き青年兜虫拾ふ
同速の樹を登る蟻降る蟻
手を拍(う)つて鯉をはげます十三夜
柿一箇怒涛を前に鎮まれる
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昭和56
第5句集
蝶を追ふ多佳子大姉の先んじて
いもとよりいとこ美し夏まつり
座る余地まだ涅槃図の中にあり
村ぐるみ花野となりぬ過疎に耐へ
様付けて金勢拝む差日傘
雲の上より降拝の紅一点
天泣か一白鳥の昇天か
年の始の噴煙に目をこする
精神科年賀云ふもの云はぬもの
三日月の光にふれて螢消ゆ
太陽に選ばれビキニ逍遥す
雲海の上に天網いわし雲
名月は近し飛行機にて歩く
背嚢を熊が曳きずる昼寝ざめ
上り鮭たましひのみが簗を越ゆ
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平成9
第11句集
長き長き戦中戦後大櫻
太陽はいつもまんまる秋暑し
たましひは先を行くなり秋の空
二つ目の原爆の日も過ぎにけり
生きて知るソ連崩壊蟲しぐれ
朝寒や剃刀當つるひげの杭
昨日より今日遥かなる殘花かな
敗戦日の午前短し午後長し
寒満月沈みたる日に照らされて
梟や男はキャーと叫ばざる
飛ぶ鳥のつひになかりし良夜かな
黒板と黒板拭と冬休
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2012年
第1句集
水澄むや宇宙の底にいる私
目を閉じてまつげの冷たさに気づく
大木とみれば抱きつく夏帽子
帽子掛け虫籠吊ってありにけり
雷や波打際の砂の城
ホットココア星を見ている人へ運ぶ
これほどの田に白鷺の一羽きり
雲の峰死にたるときの本の嵩
いなびかり象は象舎のほか知らず
平面に立体を描く寒さかな
雲の峯よりも遠くや犀の国
桐一葉黒き眼の黒兎
樹の刺繍学芸員の膝掛けに
どこへ隠そうクリスマスプレゼント
キリンの舌錻力(ブリキ)色なる残暑かな
食べて寝ていつか死ぬ象冬青空
現代詩・紫雲英・眩暈・原子力
花びらは光の裔や散りいそぐ
よじれた金網夏野への入口
紫陽花を伐る刃に紫陽花が映る
乗り出して飛魚を指さしている
校舎光るプールに落ちてゆくときに
Tシャツが濡れて水着が透けている
スカートの一人遅れて夏野行く
線香花火左手は膝抱いて
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1998年
「天狼」同人 「七曜」主宰
第3句集
胸の手が鉛の重さ昼寝覚め
遊船の波うけ島の子が泳ぐ
白毫寺磴のつづきにうろこ雲
騙されてゐよう日の中雪が降る
残雪を伽藍の蔭にのみ許す
悲しき眼鵜匠亡き鵜の緑眼は
葛あらし生家壊せしあともなし
この玻璃を頼む稲妻また稲妻
大蓮田われには見えぬ花もあり
新幹線雪に盲ひしところ過ぐ
涅槃図へいざなふ坊の緋毛氈
花の雨走つて走つて花の下
星空に帽子一振り螢獲る
鳴き出してわれもわれもと夕蜩
百万石手入れ一人は地に跼み
太陽の目潰しに会ふ昼花火
爆ぜるまで火色一筋揚花火
寝袋の天に序章の流れ星
先に行く夫を奪ふ芒原
投函す白夜の国の黄のポスト
長距離バス花野に降ろしてはくれぬ
凍るまで奥能登の滝海へ落つ
落椿さつき傍観いま凝視
聖夜劇天使マイクで終り告ぐ
誓子逝き襲ひ来るごと桜咲く
師は荼毘に吾は家路に朧月
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2009年
「海程」同人 「豆の木」代表
第1句集
藤棚の下に自転車ごと入る
よびすての少年と行く夏岬
背番号のよじれておりぬ昼寝かな
昼寝する父に睫毛のありにけり
ころりころりこどもでてくる夏布団
青林檎放物線の途中に掌
後退る背泳かなしい手を上げる
家族ならビーチパラソル支えなさい
時々は立ち泳ぎして家族待つ
帰省して母の草履でゆく海辺
夏座敷父はともだちがいない
昼寝する君の背中に昼寝する
永遠に汽車は来ないひなたぼこ
そわそわ空うごきはじめてぼたん雪
麦踏の南にむかうときは海
初蝶が自転車よろけさせている
話しやすい一本のあり楠新樹
春雨にいちばん近い席に着く
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2008年
「半夜」同人 「船団の会」会員
第3句集
名月をオペラグラスで眺めけり
ものの芽がまだ何色といふでなく
ひとつ傘さす冷ゆること言ひ合うて
河豚雑炊ふぐの口して吹いてをり
まばたきをして白梅に近づきぬ
磯巾着夢の中まで闖入す
飛花落花見し夜の深き眠りかな
逢うてすぐさくら見に行きたいと言ふ
買うて来て冬瓜二日目もごろり
寒風に顔を小さくして帰る
血の通ふほどに御室のさくら満つ
鮟鱇や言へば言ひ返されさうな
芦の穂の高さに物を考へる
金婚やなにするでなく日向ぼこ
初夢の宙返りする森光子
春立つと耳をしづかにしてをりぬ
突堤に朱夏繋がれてゐるやうに
栗を食ぶ佛のやうな顔をして
叱られぬやうゆつくりと墓洗ふ
くるくるとフォークにパスタ文化の日
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2018年
「運河」同人
第1句集
はんざきの眼なかなか見つからず
熟考の末の一歩か山椒魚
はんざきのゐぬかと岩に目を凝らす
挨拶の泡が二つ山椒魚
首出して見ても水槽山椒魚
手をうつて見てもはんざき応へざる
二三回会へばともだち山椒魚
頼りなき四肢を頼れる山椒魚
山椒魚動きて子ども喜ばす
山椒魚にも動かねばならぬ刻
一跨ぎ出来る流れに山椒魚
初旅も山椒魚のゐるところ
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平成18
「運河」編集同人
第3句集
春の鯉かたまつてゐてよく動く
観梅に来て観桜の段取りを
秋興や渚にひとりゐることも
猪狩の片眼つぶれし紀州犬
真言をとなへて点火虫送
赤き月出て来し祇園祭かな
二つ折手拭被す菌籠
豊玉姫一人静となられしか
板の間の板上げて出す蝮酒
斑鳩町字法隆寺芋茎干す
尾根筋のはつきり見ゆる鵙日和
冬紅葉ことに没日の差すときの
初氷にて厚氷御杖村
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平成9
「鶴」同人
第3句集
祭馬涼しき木蔭もらひけり
海抜を訊きて涼しくなりにけり
葛切に家居の腹の出来にけり
訊かれたることに答へず真菰刈
眼の力曼殊沙華にて使ひきる
枯山が日ごと枯山らしく見ゆ
きのふ恋ひけふ憂かりける花茨
袖口をひろらに安居したまへり
伊勢道の拳のやうな蓬餅
病院のかへりをあそび獺祭忌
ポケットに木の実ポシェットにも木の実
蹤いてくる鹿に一瞥春日巫女
角立てて待春の加賀金平糖
うまさうに炒つてあるなり鬼の豆
涅槃図を捲ける難儀に来合はせし
沢瀉の水に手入るるわれもわれも
押せば押しかへす子鹿の額(ぬか)力
癌術後五たびの年酒受けにけり
フオーレ聴く月下美人と二人して
懐にかさばる懸想文二つ
避暑の荷に加ふる白洲正子かな
小鳥くる木仏の肌光(て)りたまひ
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平成31
「きたごち」同人
第1句集
夏草の踏み分けらるる芭蕉句碑
黄八丈織る工房の古簾
若杉の秀の揃ひたる冬景色
欄間拭く巫女の二の腕年用意
ハンカチの木の花拾ふ朝の園
国境を跨ぎ虹張る大瀑布
鰯雲みすゞ生家の空覆ふ
紅差せるマリア観音五月闇
麦秋の鉄路の果ての大落暉
悪役も主役も香る菊人形
茶の花の散り初めて知る花の頃
氷柱もてつららを払ふ納屋の軒
たまに鳴る島の土産の貝風鈴
振り返る牛追ひ立てて牧閉ざす
園長の和紙の法被の鬼やらひ
行く雁の何れ劣らぬ胸の張り
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平成23
「空」同人
第1句集
真剣のきつ先に立つ博多独楽
左義長の振舞ひ酒に煤浮けり
次の世も隣に居たし螢狩
我が影も灼けて円形闘技場
日傘くるくるいつまでも待つつもり
人妻であるを忘るる花野かな
石仏につづく石段椿落つ
病む父の窓に桜の押し寄せし
汗の子を身ぐるみ剥がす勝手口
夫の声聞いてはをらぬ茄子を焼く
うねりては声凄じき稲雀
案山子のみ傾いてをり刈り了へて
百の燭大きく揺れて御開帳
灯の点るころに家路や日焼の子
餅つきに一人暮しの人誘ふ
硝子戸に祭稽古の影動く
根の国の父と交はせり月見酒
母逝きぬ春著のしつけそのままに
子の恋は見守るばかり沈丁花
母と居て父の思ひ出冬日向
梟や恋に狂ひし夜もあり
子の服はみな大きめに入学す
二月尽寄り添ふのみの看取りかな
泣けば済むさうはいかない葱坊主
父ははの名を一字づつ藤は実に
跳ねる跳ねる兎に生まれうれしくて
最期まで母は惚けず青木の実
あれは蛇かすかに動くやはり蛇
帰省子の足裏重ぬる仏間かな
口開けて子の眠りをり終戦日
病院の廊下に並ぶ聖夜劇
泣き出す子這ふ子眠る子四方の春
交はりて大河となれり春の水
囀や赤子何でも口に入れ
暮るるまで迎へ来るまで野に遊ぶ
夏雲の湧き継いでゐる鬼瓦
預かりし子に泣かれゐる日の盛り
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1994年
「狩」同人
第2句集
だんだんに真顔草虱を払ひ
手入れせし松をくぐりて庭師辞す
天上に雨もりの染み里神楽
顎紐のあとくつきりと一年生
植ゑ替へて早や優劣の茄子の苗
衣更へて海へかたむく心かな
咲くことをやめてすなはち散蓮華
みちのくの日がにこにこと芋煮会
くるぶしを風の過ぎゆく魂まつり
太陽を飴色にして干大根
かたまつて日をこぼさじと犬ふぐり
又の名の投込寺のさねかづら
牡蠣鍋や壁に実物大の舵
母の息足して円かな紙風船
風音をマイクのとらへ薪能
霊峰を仰ぐことなく登山馬
赤んぼの火の声のせて涼み船
漆黒の雫を切りて寒蜆
遠くより女神輿と分るこゑ
名刹を裏より訪ひて竹の春
筆立にルーペが一つ夏休み
波郷忌や眼鏡のなかに目を閉ぢて
雨の音雨だれの音巴里祭
身ほとりに未亡人増え秋ざくら
ゆるやかに雲やりすごし山眠る
吊橋を風の速さで雪女郎
蝋梅の日ざしにとけてしまひさう
遠目には岩と睦める海苔搔女
足あとを波にさらはれ西行忌
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平成3。
「南風」同人
第3句集
空蝉にのこるひかりの茶色の眼
こゑのあと音の澄みゐて松手入
そのまはりをぐらく涅槃し給へり
警策のいろなき風にひびかせぬ
落葉駆ける地上一寸夕あかり
しはぶきのひとつ此岸に初法会
漆黒の土間に降り込む春の雪
雛の灯眠気大事にねむりけり
噴水のいきなり高し原爆忌
行くほどに霧濃くほとけ立ち給ふ
ばらばらに整ふ礎石秋の風
瀬田川は大湖をしぼり雁わたる
そのいろの土となりつつ落葉みち
絶壁に水仙根づく怒涛かな
二人子に子がふたりづつさくらんぼ
目覚めゐて天井高しほととぎす
夕端居父のおほきなかげにゐし
鵜飼終ふくらくおほきく嵐山
ひとの死におのが死かさね寒夕焼
子も孫も島出てしまひ灸花
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平成11
「狩」同人
第3句集
朴落葉土になじめぬままの反り
飾り海老龍に劣らぬ髭を張り
たかんなに近づく鍬を後ろ手に
遠く来て茅の輪一歩でくぐり抜け
神殿に脱ぎ捨てられて蛇の衣
生きるとは残さるること鳥雲に
あかがねの拳ゆるめて種を蒔く
ひぐらしのこゑもちりばめ光堂
白鳥を載せみづうみのたなごころ
もの言はぬひと日が欲しや龍の玉
冴え返る魚拓には目がひとつのみ
硬さうに張られ遠野の代田水
暑気中り寝ころびて聴くレクイエム
名前などどうでもよくて裸木は
太陽はまさしく主賓運動会
滝入れてまた流速の最上川
ぽつぺんは駄句さながらのひびきかな
雪に顔捺せば忽ちデスマスク
美しき雪嶺めざし救助隊
料峭の筆禍につづく舌禍かな
お松明火のたてがみがちぎれ飛ぶ
誓子忌はベートーヴェン忌あたたかし
焼藷をつつむ核実験の記事
降りさうで降らぬいちにち栗の花
国宝の臍の涼しき観世音
手を噛まれさう炎天の赤ポスト
学帽のむかしありしよ木の葉髪
初日てふ一球体に手を合はす
どか雪のあと一輪の月照らす
大野焼かの戦火には及ばざる
ねんごろに戻す筍掘りし土
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2014年
「幡」会員
第2句集
御写真の通りの御方椿餅
天高き杜の都のクラス会
啓蟄の採寸ぐつと腕伸ばす
ふらここのそばにやつぱり来てしまふ
オクターブ低き声あり卒業歌
短日の瞬間接着剤に蓋
羽ばたくを押さへ鶯菜を茹でる
ダンボール二個の引継ぎ四月来る
子規の忌の句座に一口チョコレート
図説大歳時記五巻獺祭
大暑へと引き摺る赤き旅鞄
抱へたる肘ざらざらと敗戦忌
母寒ぶといへば幼らさぶさぶと
京美人御一行様舟遊び
帰らうと幼なの言へり秋の暮
水底に沈む紅葉に散る紅葉
その中にギプスの一人聖夜劇
暑気払ひシチリア島の赤ワイン
ゴールデンウィーク琵琶湖一周す
松過ぎの今もツルカメ薬局と
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2023年
「阿吽」同人
第一句集
こはごはとよその子叱る良寛忌
ざりがにの動くまで子の動かざる
粧へる山粧へる老姉妹
苗札や書き損じしを裏側に
クローバー摘みつつ内緒話すこし
青芝に髪刈る椅子を据ゑにけり
抱き飽きて転がしておく竹婦人
まだ渡るもの一つなき初御空
父よりも上手くなるなよ喧嘩独楽
検診のスリッパ小さし寒戻る
冷蔵庫開けられてメモ靡くなり
ナイターの終の一灯消されけり
きぬかつぎ我が指存外可愛らし
ちりとりへ春光ばかり集めけり
絡まりしまま乾びゆく蚯蚓かな
飛び込みの音つぎつぎに山谺
仕舞湯の渦なして落つ大晦日
刃に目玉映し比べて農具市
音すこし風に遅れて秋風鈴
基地の中まで寒林のひと続き
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2014年
「狩」同人
第4句集
春愁や白線にある内と外
くるぶしと波の遊べる端午かな
振りだすも上がるもにはか夏祓
降りだして空の落ち着く雨水かな
すぐ翳るそれさへ京の冬らしく
あのころの時はゆつくり日向水
手花火のはじめは土の匂ひかな
窓に顔寄せて秋思の始まりぬ
建国の日やいくばくか土を踏み
ひとびとにゆきわたりたる桜かな
形代に書きてわが名の他人めく
夜学子の親子ほどにも年違ふ
失ひしものは数へず春の星
疲れ鵜をなほ打つ雨となりにけり
馬上とは意外な高さ秋澄めり
土塊となるまでのこと蚯蚓鳴く
スプリングコートその日を待ちにけり
養生を忘るるほどの春日かな
春炬燵しまふその辺のものしまふ
緑蔭の木椅子は少し眠るため
香水を一滴思ひ断つごとし
さきほどと違ふ明るさ秋さうび
文学部へととづきけり落葉道
通されて障子明りの中に座す
どこへでも行けさうけふの暖かさ
飲食(おんじき)の音を立てずに炉の名残
風鈴のこはれさうなる音色とも
秋興や動かぬ船に乗ることも
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2014年
「狩」同人
第4句集
春愁や白線にある内と外
くるぶしと波の遊べる端午かな
振りだすも上がるもにはか夏祓
降りだして空の落ち着く雨水かな
すぐ翳るそれさへ京の冬らしく
あのころの時はゆつくり日向水
手花火のはじめは土の匂ひかな
窓に顔寄せて秋思の始まりぬ
建国の日やいくばくか土を踏み
ひとびとにゆきわたりたる桜かな
形代に書きてわが名の他人めく
夜学子の親子ほどにも年違ふ
失ひしものは数へず春の星
疲れ鵜をなほ打つ雨となりにけり
馬上とは意外な高さ秋澄めり
土塊となるまでのこと蚯蚓鳴く
スプリングコートその日を待ちにけり
養生を忘るるほどの春日かな
春炬燵しまふその辺のものしまふ
緑蔭の木椅子は少し眠るため
香水を一滴思ひ断つごとし
さきほどと違ふ明るさ秋さうび
文学部へととづきけり落葉道
通されて障子明りの中に座す
どこへでも行けさうけふの暖かさ
飲食(おんじき)の音を立てずに炉の名残
風鈴のこはれさうなる音色とも
秋興や動かぬ船に乗ることも
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昭和42
「天狼」主宰 第12句集
田植衆憩ひて飲みも食ひもせず
胸を背に寄せて雪嶺重なりあふ
架橋行く眼にもとまらぬ雪解川
農夫独り何に手を拍つ春の晝
秋晴を禿山たるに終始する
一枚を念ずるごとく紙梳けり
吾が真似て漉きたる紙は紙ならず
冬山にピッケル突きて抜きしあと
寒雲の擦過してゆく吾が頭上
スクラムを組む肩と肩音立てて
二分一分ラグビーの終末の
激流に棹一本の和布刈舟
光背として自転車に水搬ぶ
盤石の雲ラグビーの始まる頃
萬燈の全燈の下水流る
萬燈の列の中途に立ちどまる
紙漉場何の数字の正正正
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2009年
第1句集「春雷」第2句集「指環」合本
「樹海」会員
寒ともしわざに馴れたるひとの指
寒玉子うく徹宵の油の掌
雪の宿貨車の連結みてゐたり
凩やはやめに入れる孤りの燈
冬雨やうらなふことを好むさが
春雷はあめにかはれり夜の対坐
とほけれど木蓮の径えらびけり
古本を買うて驟雨をかけて来ぬ
躬(み)のつかれ窓にいたはる夕薄暑
夫ならむひとによりそふ青嵐
工場菜園畸形の胡瓜そだちつつ
爆撃はげし
東京と生死をちかふ盛夏かな
宵闇やひとにしたがふ石だたみ
湯の中に乳房いとしく秋の夜
穂芒のひとつ折れしが吹かれゐる
焚かれゆくけさの落葉のなまがはき
煖房のおよばぬ隅に着更へする
冬の月樹肌はをしむなく光(て)らふ
秋燈下こまかくつづるわが履歴
甘へるよりほかにすべなし夾竹桃
娼婦またよきか熟れたる柿食うぶ
月の夜の蹴られて水に沈む石
星凍てたり東京に棲む理由なし
コスモスなどやさしく吹けば死ねないよ
夏みかん酸つぱしいまさら純潔など
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