茨木和生『句集 遠つ川』(禽獣舎)より
- 2019.01.29 Tuesday
- 11:07
昭和59。「運河」主宰の第2句集。
句集のタイトルは古語の格助詞「つ」にこめられた古代人のおどろき、なげき、うめきのようなものが聞こえてくるような気がするからだと。
俳人仲間の中上健次が題字を書いている。
戻り来て真水を浴ぶる海女のこゑ
分校は大きな巣箱小鳥来る
西国はおかげ晴なり烏瓜
亀甲に日をちりばめて水温む
ほととぎす一樹一樹の夜明け来し
蛸突の少年岩を跳びて来る
犬とゐて炭焼夫子も妻もなし
枯山の菩薩顔して日当れり
雨降れり素直に伸びし筍に
葛切って切り落とすなり熊野灘
山も田も陽気ぐらしや曼殊沙華
三方の壁に本棚小鳥来る
ジュース罐拾ひ集めて海士戻る
子供会寺に巣箱を掛けに来し
拝みたる位置退きて瀧仰ぐ
土用波海凹ませて持ち上ぐる
冬山を霧の一線迫り上ぐる
瀧壷の波瀧水を押し出せり
一枚の青田に降りる石の階
十津川の淵立ち泳ぐ子がひとり
夏疲れ駱駝が膝を折るやうに
手を突いて花野の岩を一つ跳ぶ
水澄めり素直に岩を通り越し
秋冷の木箱二つに影ひとつ
水平に飛ぶ逃げなれし稲雀
木の葉散る水中にても翻り
眠る山大きくて空大きくて
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