中田恒子『句集 木守』(ふらんす堂)より

  • 2020.01.28 Tuesday
  • 13:02

 

 

囀りに弥陀は合掌もて応へ

老鶯や明治生れの語尾たしか

寒紅を刷きて病む身の隠されず

行く雁のまなうらにあり眠られず

立待の月上るまで厨ごと

ひらくよりはや旅ごころ春日傘

をりからの蝶も祓はれ地鎮祭

古きもの仕立て直して十三夜

ふるさとの青きをおもひ青き踏む

ひと打ちもなほざりにせず鉦叩

飛びたがるスカーフ押さへ野に遊ぶ

さみどりを山と盛りあげ月見豆

鉄瓶のたぎりしづめて炉辺話

妙齢のごとくまぶかに麦藁帽

窓越しの海のひろがり卒業期

泣き虫のあの子が答辞卒業歌

木影ゆれ木漏れ日のゆれハンモック

口中に飴あそばせて探梅行

それぞれの箱に納まり夫婦雛

普段着のままかしこまる雛の前

人日の朝から廻る洗濯機

主と従の香りひとしく菊人形

夕蝉やふたりぐらしの米洗ひ

おのが頬叩きて覚まし受験の子

露けしや梳きて直らぬ髪の癖

神棚をひととき庭に煤払ひ

薄氷や鯉とおぼしき影の過ぎ

名園を解放月の客迎ふ

鬨の声なき戦場に菊の武者

をさな子の言葉にならぬ御慶かな

秋しぐれ庭師は鋏休ませず

膝がしらわづかに入れて春炬燵

夏の日を入れず乙女の自決壕

薫風や両手ひろげて平和像

行き来なき隣家をつなぎ蜘蛛の糸

大見えを切つて声なき菊人形

離職せし子の胸張つて田を起す

菖蒲湯に入りて無病を疑はず

父に誘はれ屋上のビアガーデン

一息に山を駆け下り龍田姫

襟巻をぐるぐる巻きに塾帰り

葉桜や書棚の本を並べ替へ

 

JUGEMテーマ:俳句

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